外へ出ると、綺麗な絵画のような朝の空が広がっている。はるか遠くで薄水色と深い紺色が混ざり、広場の木の葉からはたくさんの光の粒が湧き出てきて、鳥の群れのように弧を描きながらくるくる回り、どこかへ飛んでいった。
あれは全ての光を吸収する究極の黒、いわゆるベンタブラックと呼ばれるものよりもさらに深い黒から生まれる光たちである。おそらく昨晩の間に生成され、樹冠に蓄積されていたのだろう。
私は手首をくの字に反らせ、鳥の羽ばたきのように揺らしながら、まだ暗い石畳の道をスキップしていった。
カワウソが1匹脱走してしまったので追いかけた。すると、
「塀を乗り越え海へ逃げ出し、そして死んでしまった」
というナレーションが聞こえてきたので、(え、カワウソ死ぬの!?)と驚いた。
もし本当に死ぬ運命にあろうとも、それに抗わなければならない。必ずや助け出さねばならない。海は冷たく流れが速い。鳥瞰的視点から逃げたカワウソを探し、片手ですくいあげる。目をつぶって死にそうなカワウソを、手で温めながら戻った。
ラグビーボールが転がっていきそうなので追いかけて拾った。回転させながら投げ、ボールが宙にある間に、自分も一回転してキャッチするという、独特のルールを教わった。練習してたらいつのまにか23時だ。
目的地の温泉街は終点なので、このまま寝ても大丈夫。夢うつつのなかGoogleマップを開き、いつもの終点の駅より先のルートが示されていることを確認し、再び目を閉じてバスの揺れに身を任せた。
大阪の街を南北に貫くあの大きな国道は、夏はプールとして利用される。私は超高層ビルの上や上空を飛ぶヘリコプターから、その様子を眺めている。クロールで泳ぐ人、浮き輪に乗って水の流れに身を預ける人、たくさんの人々の小さい丸い頭が、細長い容器で洗われ、互いにぶつかり合う芋のように、それぞれのスピードでゆっくりと動いていく。
俯瞰しながら入口まで移動してみると、そこには誰もおらず、疏水トンネルのように、石造りの苔むした壁をくり抜いて、アーチ状の暗闇が続いていた。この奥は、昔、母が通っていた小学校の跡地につながっている。
私は水面に降り立ち、トンネルの中へ入った。進むにつれて、水面とトンネルの天井がどんどん近づいていき、とうとう水中へ潜りこんだ。そうだった。旧小学校は、水の中にそのままの形でのこされていたのだった。広大な空間の真ん中に、校舎が当時のままの形で姿を現した。外の光が差し込み、やや濁った青緑の水のなかで影をつくり、ゆらゆらと動いている。古びたいい感じの機材なんかが置いてあったりして、せっかくだからとシャッターを切る。
友だちとスノーキャッチボールをする約束があったので、狭隘な雪のトンネルを這い登り、なんとかゲレンデにたどり着いた。しかし到着してから、約束を1日早く勘違いしていたことに気がついた。
どこか一晩泊めてくれるところはないかと、あちこち歩き回って見つけたヒュッテは、温かい木目調の広々とした小屋で、ひとつの大部屋に、ベッドやソファがあちこち置かれてあった。スノボとスキーの板を背負ってうろうろしていると、奥のほうから小さなおばあちゃんが出てきて私に声をかけた。
「お客さん、今日は泊まりかい?あいにく今晩はいっぱいなのだけれど…」
「邪魔にならないところで雑魚寝させてくだされば、それで結構ですので、どうか…」
と頼み、寝転がれそうな場所を探して歩いた。
そのような場所はいくらでもあるように思えたが、問題は、猫である。このヒュッテには猫がたくさんいる。私が連れてきた猫もいるので、間違えないようにしなければならない。青と白のぶちの猫で、目は丸ビーズのように小さくてつぶらだが、笑うと丸括弧を二つ並べたようにニコニコして大変かわいいのである。私はリュックから頭をのぞかせているうちの猫を抱き抱え、膝の上へのせた。するとすぐにヒュッテの猫たちとじゃれあい始めた。
友だちと落ち合う予定のカフェは、大通りに面したところにあるのだが、なぜか父親が、未成年援助交際の疑惑話などを持ち出して気にかけてくる。信頼されていないことに腹が立ち、父のスマホを奪い取って、Googleマップにその店の名前を入力して突き返した。
怒りのままに外へ出て歩いていると、どこか懐かしい場所へ出た。市街地の真ん中の小さな山の中に、さびれた人気のない通りがあり、民宿のような雰囲気の建物がいくつか並んでいる。昔よくここを通っていたような気がする。なぜか片想い人に会える気がする。ずっとこの場所に立っているとそんな気持ちになってくる。
この山はもうすぐ開発によって切り崩されてしまうらしい。建物の反対側には、開発の概要について説明している、ジオラマのショーケースとパネル展示が並べられている。
私はワインを注射器で吸い上げ、目に垂らす。
私はイタリアンレストランで食べ残したパスタの皿を見つめていた。パスタのとなりはアイスティーが2つ並んでいる。食べる前に写真を撮り忘れたのだが、ここへ来た記念にどうしても記録を残しておきたくて、インスタ映えする角度を探っていた。
テラスの外には、絵みたいに綺麗な山と花畑が映り、薄水色の空には白い月がぼんやりと浮かんでいる。店の中から見た風景っていうのも、案外ありかもしれないと、スマホで写真を撮ろうとしたところで、人が映り込む。
今日はもう無理かもしれないと諦めてレストランを出る。デッキに上がると、水平線に沈む太陽が見えた。無意識のうちに写真撮ろうとカメラを構えると、太陽は次第に膨れ上がり、家ひとつ覆ってしまうほどの大きさになった。この太陽は自ら光を発する様子はなく、表面はアルミホイルを巻いたようにギラギラと輝いている。角度を変えると、木星の模様に変わった。とにかくデカい太陽である。
東京日本橋の雑居ビルの最上階で、どこか食べるところを探していた。寿司屋はオープンな造りになっていて、短い暖簾がかけられているだけで、外から中の様子がよく見えた。4人掛けの机がいくつか並べられていて、2,3人の客が座っている。食事をしているというよりも、美術の工作をしているような感じがあり、気になったので入ってみた。
ガラガラの店内で従業員も暇そうにしていたが、私を見つけるとすぐ、その辺の席に案内してくれた。メニューは普通の寿司屋と特に変わりはなく、お任せコースを頼んでみた。すると、シャリがいくつか並んだ皿と、色とりどりの粘土が並んだ皿が出てきた。やはり普通の寿司屋とは少し違うようだ。これらの粘土からいろんなネタを作れるらしい。
お腹が空いているから入店したのだが、果たして本物の寿司にはありつけるのだろうか。寿司屋と謳っている以上、この粘土は食べられる粘土なのだろうか。半信半疑で粘土をこねていると、外から爆発音が聞こえてきた。
店を出て、音がした地下鉄乗り場のほうへ向かう。下へ降りれば降りるほど、焦げた匂いが増してくる。地下広場は薄暗く、たくさんの人が混乱気味に右往左往している。火事があるみたいだが、どこが火元かわからない。
そのうち2度目の爆発があったらしく、凄まじい音が広場中に響いた。火元はすぐそばだ。みんなパニックになり、狭い出口を目掛けて一斉に走り出した。薄暗い中に煙が蔓延してよく見えない。広場は叫び声がこだまし、大混乱である。私も煙を吸わないようにしゃがみながら、ただただ人の流れに身を任せた。
大型レジャープール施設に遊びに来た。みんなが泳ぎ続けるなか、早々に力尽きてしまった私は、先にあがってのんびり待っていようと、更衣室へ向かった。プールと更衣室は3本アームの回転式ゲートで隔てられていた。何も考えずに出てしまうと、プールのほうには戻れなくなった。
廊下に1人用の掘り炬燵が、壁に向かって設置されており、小さな本棚などもあって、時間を潰すのにちょうどよいと感じた。座って本を読んでいると、机の上の電話が鳴った。
「坂内さんあてのお電話なのですが…」
と、電話の向こうの女性の声。別人であることを伝えて切ると、すぐに坂内さん本人が現れた。
更衣室のドアから出てきたのは、丸メガネでお腹の出ているおじさんで、私は会ったこともないのに、なぜか一目で坂内さんに違いないと直感した。
坂内さんと私は向かい合わせに座り、たわいもないおしゃべりを始めた。会話の内容も、まるで旧来の友だちがするようなものであった。いい人を紹介してくれるというので、是非にとお願いした。