220211 - 1
某ゲーム実況者が中学生だったころ、私もその実況者の通う学校の生徒であった。梅雨が明けたばかりの晴れた日の朝、長い石段を登って学校へと向かっていた。前にはだらだら喋りながら歩く学生たちがいる。どこかに例の実況者もいるのかと思うと少しわくわくした。
右手に建つ小さな小屋の前まで来た時、自分の本業を思い出した。自分も生徒のつもりで歩いていたが、今日からこの特別学級で講師をすることになっていたのだ。本校舎へ向かう生徒たちの波から外れ、小屋への階段を上がった。すでに何人か生徒たちが入口前に集まっている。私が鍵を持っているのだから、先頭にいるべきだったのに。初日からいろいろ忘れているので、先行き不安である。慌てて鍵を開け、中へ入ると、木造の感じのいい教室である。
私は数学と英語を混ぜたような教科を担当することになっているのだが、今日何をすればいいのか、早速わかっていない。
「前回の授業で宿題とか出された…?」
などと一番前の生徒に聞いてみたりしてなんとか取り繕う。
生徒が見せてくれた教科書のページをたよりに、なんとなく黒板に表を書く。
" Date / Name of port / Location / Contents / ..."
いかんせん列数が多いので、黒板に入りきらずに何度も消して書き直しをする。
一番前の生徒がひとり、教科書すら出さずにいるので、近づいて、興味を持ってもらえるよう画策する。
「少しずつでいいんだよ。まずはとりあえず教科書を開くところから…」
語りかけるうちにだんだん熱がこもりだす。
「…この問題のポイントは、覚えるべき英単語とそうでない英単語を見分けること。例えば、コンテナ内の商品名は覚える必要はない。それがわからなくても問題は解けるように設計されているわけで…」
深々と頷きながら話を聞いてくれる子がいるのが、傍目にわかる。我ながらいいスタートを切れているように思う。