夢日記

書き留めた夢を文章にして公開しています

220129

 帰り道、数人の小学生が男に絡まれているのを見つけた。不穏な空気を感じるので声をかけたいと思うが、怖くて近づけない。知り合いが向こうから歩いて来るのを見つけたのでつかまえて、代わりに助けてあげて欲しいと頼み込んだ。しかし彼は私が何の話をしているのかわかっていないようである。私が好きな料理を尋ねると、知り合いは焼き鳥と答える。

「焼き鳥おごるから!頼むからお願い!!」

と懇願するもむなしく、彼は去って行った。

 仕方なく男の方へ向かおうとする途中、パンッ!!という乾いた爆発音が聞こえた。現場に着くと、友人たちがしゃがみこんでいる。彼らのうちのひとりが作ったロケット爆弾が意図せず爆発してしまったらしい。その子は両足をなくし、隣にいた子は両目を失った。私はまだそのことを知らず、彼らに「大丈夫?歩ける?」と声をかけた。そう言った直後、両足の膝から下が無くなっているのを見て、青くなった。目をなくした子が、「誰か来たの?」とその子に尋ねた。彼らはこの事故によってけがをしたが、傷口から血は全く出ておらず、もともとその器官を持っていなかったかのようになめらかである。

 彼らは映画製作サークルの人たちで、私は彼らのことを前からよく知っていた。だから今は彼らのそばにいてあげなければと思うが、さきほど足を失った子に、歩けるか、などと聞いてしまったことが後ろめたく、少し離れた所に座って彼らがつくったばかりの映画を観ることにした。

 映画は走っている主人公の視点から始まる。どうやら何者かに追われているようだ。親指ほどの大きさになって、外壁に覆われた街を背に、一目散に走っている。周りに身を隠せるような建物は一軒もないが、たまに木の根っこのようなものが地面に突き出しており、極力それらに沿うようにして走る。追手に見つからないようにと願っているが、そもそも誰も追いかけてくる気配がない。

 知らない街に着いた。手前の小さな建物に身を隠す。建物の中にさらに木造の小屋がある。街の人にとっては人形サイズの小屋なのだろうが、自分にとってはちょうどいいサイズである。中に入って扉を閉め、膝を抱えてこれからのことを考える。何も計画を立てずに飛び出してきてしまったが、この後はどうしようか…。外の足音がひとつ、この小屋の入っている建物の前で止まったのが分かった。守衛さんだろうか。扉を開ける音が聞こえる。

(こっちに来ませんように…!)

と願えば願うほど、どんどん体が大きくなっていくのが分かった。さっきまで余裕をもって座っていた部屋の壁や天井に、腕や首が当たって窮屈になった。足音が小屋の前までやってきた。扉が開いた。私は最悪の結末を覚悟した。しかし守衛さんは中をちらりと覗いただけで扉を閉め、建物から出ていった。私がぴくりとも動かなかったので、ただの人形だと思ったのだろうか。

 ほっとしたのも束の間、すぐに別の男がやって来た。誰かと電話をしている。彼は部屋に入って扉を閉めると、

「そこにいるのは分かっている。しらばっくれるのは構わないが、どうせいずれ捕まることになるぞ。」

と言った。その言葉が電話越しの相手に向けたものでないことは、男の姿を見ずとも明らかであった。私は一か八か、外に出ることを決心し、勢いよく小屋から飛び出した。いつの間にかもとの人間の大きさに戻っていた。そのまま跳ね上がるようにして部屋のロフトに置かれてあった壺を手に取り、落下しながら下にいる男の頭にええいままよと叩きつけた。

 倒れて動かなくなった男の手荷物をあさると、自分の持ち物についていたはずの買い物タグが見つかった。男は自分を追っていたことを確信した。指紋がついただろうから、タグをそのままポケットにしまい、急いで外に出た。近くのアパートの外階段から2階の共用廊下へ上がり、奥の方の物が積まれてごちゃごちゃしているところへ身を隠すように入っていった。あたかも、自分はここで探し物をしているだけの人であるかのように振る舞っていたが、すぐに後ろから「何をしているの?」と声をかけられた。

「釣り道具を探しているんだよ。」

咄嗟にそう言葉が出た。仕方ないのでそのまま釣り人として振る舞うことにした。

「これ落ちてたけど…」

と後ろにいた女が見せてくれたのは、さっきポケットに入れたはずの買い物タグである。「ありがとう…!」と動じているのを悟られないように受け取る。女は私のことを知らないようだった。

 廊下の丸椅子に腰かけて、スライド資料を作成している人がいる。何も言わずに通り過ぎるのもあれなので、話しかけてみた。福祉施設の職員らしいが、彼自身かなり年を取っているように見える。痩せこけていて、背が曲がっている。肩こりが辛いというので、持っていたツボ押しをあげた。しなやかに曲がる金属の棒に木製の持ち手と円錐のツボ押しがついたドイツ製のもので、シンプルなつくりだが非常によく効くのだ。ほらやっぱり、少し使っただけで「こいつぁ日本の企業も敵わん笑」と嬉しそうだ。

 さきほど声をかけてきた女に彼女の友人たちを紹介してもらい、みんなで街を歩く。彼女らは私がここへ来るのが初めてだと知ると、街のいろんな場所を案内してくれた。この街の歴史を刻んだモニュメントが集まっている広場へ来た。その中のひとつに自然と目が留まる。ギロチンを模した木製のモニュメントで、裏側に説明書きがある。

「令和3年12月、○○…」

(つい最近のことだ…)

冷や汗が出る。その後の説明文には、自分が逃げ出した街とのいざこざが書かれている。さっき殴ってそのままにしてきた男のことが関係しているのかもしれない。何かよく分からないが、自分のしたことのせいでこの街で悲しいことが起こったのだと思う。彼女らがそうと知らずに私と仲良くしてくれているのが、申し訳なく感じる。

 歩き出した彼女らにぎこちなくついていこうとすると、友人たちのうちのひとりが私の後ろにいたのだろう、突然私を後ろから抱き止めた。

「何か隠していることがあるんじゃない…?あなたを見ていると○○○…」

私はなんだか頭がぼーっとして、彼女の言葉を聞きながら、目の前の納豆ご飯のオブジェをぼんやり眺めていた。巨大な納豆ご飯が祠のような暗い小屋の中に入れられており、ラーメン屋の前とかにあるやつみたいに、納豆をとらえた箸がお椀の上で糸を引きながら上下に動いている。

 少なくとも彼女に敵意はなさそうだった。自分はもう隠し事をするのが疲れてしまったが、今までのことを言葉にするのも億劫で、ただ声も出さず涙が出るのにまかせた。彼女は私から手を離し、我々は再び歩き始めた。彼女の手がちょうど私の目頭にあったため、指に涙がついてしまった気がする。ティッシュを差し出すと、彼女は黙って受け取り、手を拭いた。

 みんなのいるところに追いつき、ゆるい坂道を上っていく。いつの間にか不穏なBGMが流れ始めている。