夢日記

書き留めた夢を文章にして公開しています

211023

 地底には洞窟の部屋がいくつかあり、そのうちの一つは書庫になっている。私はその部屋の中で、壁に立てかけられた自分の身長ほどもある巨大な絵本を眺めていた。私の背後にはずらっとキャスター付きの本棚が並んでおり、部屋中に博物館でよく聞くような解説ナレーションが響く。この部屋は、アフガニスタンの子どもたちを支援する取組みの一環として彼らに届ける本の、一時保管場所となっているらしい。以前より届けられる本がどんどん少なくなっていっているという。

 壁に立てかけられた大きな絵本は、アフガニスタンのある地方で家族みんなで暮らす人びとの様子を、一人の女の子の視点から描いているものである。柔らかなタッチと色使いで何気ない日常の出来事が描かれているが、ページをめくるごとに、絵や文章の配置から受ける印象がどんどん不穏なものへと変わっていき、後半に差し掛かったころには、絶えず強烈な恐怖が私を襲うようになっていた。なぜだかわからないが、一刻も早くこの場から逃げ出したいと感じていた。私は自分自身のことを考えた。

(私たちはみんなで仲良く暮らしている。これが一番大事なんだ、そういう意図で描かれた絵本なんだ!だから大丈夫だ!!)

そう強く念じて迫りくる恐怖に対抗した。キャスター付きの本棚には文庫本もたくさん置かれていた。ラノベっぽい表紙の本を一冊手に取って眺める。帯が上下左右につけられており、とても邪魔に感じるが、勝手に取ってしまっていいものか悩ましい。

 突然外から集合の合図がかけられた。急いで部屋から出て、みんなの列に加わる。我々は洞窟のような細い道を歩いていく。先頭にいる師匠は少し開けた場所で立ち止まり、今日から加わった新たな仲間に向けてこの場所の紹介を始めた。この地底には3か所の心霊スポットがあり、ここはそのうちの一つとなっている。師匠の指さす空間には、白の太字で怨霊の名前が表示されている。名前がローマ字表記となっているので、ここにいる怨霊はおそらく海外の出身なのだろう。この説明を聞いて合点がいった。私が先ほどから強く感じている恐怖の源はここであった。

 師匠は周りを見回し、「今日は見当たらないようだね。」と言う。私もつられて辺りを見回した。上を見上げると、こちらに飛び降りてこようと構えている怨霊の姿があった。客観的に見ると危機的な状況だが、我々は別段慌てることもなく冷静である。師匠がついていれば、彼ら怨霊はこちらに手を出すことができないことをみんな知っているからだ。

 そう思った瞬間、みんなどこかへ行ってしまい、私は一人ぼっちになってしまった。これはまずい…!と慌ててその場から逃げ出した。私はヒトダマのような白く光る浮遊体となり、狭い洞窟の中を飛び回った。来た道に引き返そうともしたが、あちこち回りすぎてもう自分がどこにいるのか見当もつかなくなってしまった。書庫にいたときから絶えず感じていた恐怖は一層強まり、何かおそろしいものがどんどんこちらに迫ってきて、ぴったりと私の横にくっつこうとしているような感覚があった。途中、自分と同じ姿のヒトダマがいくつかうごめいているのを目にしたが、仲間かどうか判断する余裕もなく、ひたすら誰もいない安全な道を目指して飛び回った。

 しばらくすると突然やや広い道に出た。道の真ん中にはトゲトゲしたスライムみたいなやつが浮いており、見るからに強そうなオーラを放っている。とてもかなう相手ではないと分かったが、他に進むべき道も見当たらず絶望していると、道の反対側に、今にも発射しようとしているロケットを発見した。私は閉じかけていたドアの隙間から急いで中へ飛び込んだ。

 私を乗せたロケットは地底から飛び出し、外の眩しい光にしばらくの間目がくらんだ。雲が空一面を覆い、パラパラと雨が降っている。雲全体が太陽の光を受けてぼうっと白く光っている。どうやら鉄筋がむき出しで外の光が差し込む廃墟の中を、ゆっくり上昇しているようであった。ロケットはいつの間にかただの四角い板になっており、私のほかに4人ほどの仲間が乗っていた。

 やがてロケット、もとい板は上昇をやめ、ゆっくりと下降を始めた。今はゆっくりだが、次第に落下速度が増すことは分かりきっており、この高さだと下に落ちたら死んでしまうかもしれない。我々は慌てて、廃墟の天井から吊下がっている巨大な2つの鉄ロールの方へ重心移動で板を動かし、ロールの上になんとか板を滑り込ませた。ロールは可動式らしく、我々と板を乗せてゆっくりと降りていった。降りていく途中、なぜか私だけ鋭利なパイプに突き刺さって死ぬように仕向けてられているのを感じたため、必死に抵抗した。

 結果、全員無事に着陸し、各々のポケットWi-Fiを取り出してバッテリー残量を確認した。まだ90%もある。よかった、死んでない。と安堵したのもつかの間、私の残量だけ突然1%に切り替わり、乾電池の表示が緑から赤になった。何者かがあらゆる手を使って私を死に至らしめようとしてくる。

 とにかく、我々は無事に外に出ることができた。先ほどまでずっと感じていた恐怖はいつの間にか消えていた。希望を持って、これからどうするか考えていこう、とぼんやり白く光っている曇天の空を見上げながら思った。