夢日記

書き留めた夢を文章にして公開しています

210303

 ある晴れた日の昼下がりに、自転車に乗って山を降り、麓の町を訪れている。町といっても見渡す限り田んぼで、周囲に目立った建物はない。民家はまばらだが、特に町の入り口に集中しており、その辺りは道も入り組んでいる。そのため、勢いをつけて山から降りてきたりなんかすると、人にぶつかりそうになったり段差にハンドルをとられたりするので、ブレーキをかけつつ細心の注意を払って自転車を漕ぐ。しかしゆっくり漕いでいては町の人から声をかけられてしまうので、なるべく速やかに橋の向こう側の道へと向かう。私は町の人間ではないのだが、町の人々は私に関心を示してくれているようだ。彼らに話を合わせてしまうと、この町で働かなければならなくなることを私は知っており、それゆえになるべく彼らと目を合わせないように慎重に、かつ素早く自転車を漕ぐ。

 橋を渡ると左右に田んぼが広がっており、緩やかな上りの坂道がまっすぐ延々と続いている。ここへ来るといつも何かに追われている気がして、振り返らずにひたすら坂を登る。どこまでもどこまでも登る。どこへ向かっているのかもわからないまま走り続け、気がついたらさっき降りてきたはずの山をもう一度下っている。そしてまた橋の向こう側の道を目指して自転車を漕ぐ。これを何度も繰り返す。

 もう何度目かの坂を登る途中、私は同じように町を通り抜けようとしていた青年を追体験していることに気付いた。その途端視界が塞がれ、白い雪のようなものにすっぽりと体を包まれた。雪のようなものは私を追っていた何かから守ってくれたようである。私が追体験している青年は猛禽類の研究者になることでその何かから逃れようと試みていたこと、こうして守ってあげられるのは今回だけだということを、雪のようなものは教えてくれた。いつのまにか肩に猛禽類を乗せた青年が現れ、学部の2年生が猛禽類の研究をできるラボに所属するためのノウハウなどについて教えてくれた。青年は黒の長髪にキリッとした太い眉をしており、どことなく猛禽類らしさを感じさせる風貌であった。今思えば、彼自身が猛禽類だったのかもしれない。

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210302

 私は中学生くらいの女の子の家庭教師を始めることになった。その子の家に顔合わせに行き、カードをプレゼントして他愛もないおしゃべりをした。勉強を見るのは次回からということで、その日はそのまま帰ることにしたが、部屋を出たあと、あの子がさっきあげたカードにどんな反応を示すか気になり、ドアを少し開けて中を覗き見た。しかし、ちょうど覗きをしているところを彼女の母親に見つかり、かなり渋い顔をされてしまう。何か言われる前にと逃げるように彼女の家を後にし、自宅へ急いだ。

 道行く途中、建物の2階にあるカフェに目が留まる。よほど気になったのか、無意識のうちに店内に入っていた。一見普通のカフェなのだが、よくよく見ると、グラスに入れられたワインなどの細かいところは、右側に重力が働いているかのように作り込まれている。椅子やテーブルなどは普通に配置されているため、すぐには気付かなかった。

 どういったコンセプトなのか不思議に思っていると、このアイデアに至った経緯を店員さんが教えてくれた。どうやら、長い間引きこもっていた男が、数年ぶりに外に出たときに得た印象をそのまま再現しているらしい。当時の男の見た光景を私も見せてもらうことにした。ドアを開けて飛び込んできた広い庭の風景を見て、なるほど、確かに右側に重力が働いているのを感じる、と納得してカフェを出た。

 自宅に着く。確かに覗きは良くなかったと思いながら2階へ上がり、仕事で外出中の父の部屋に入った。布団が敷きっぱなしで、段ボールやら本やらが散乱している。片付けの苦手な自分が言えたことではないが、これはなかなか…などと思っていると、母が隣のベランダに洗濯物を干しにやってきた。

 母につられて私もベランダに出て、ぼーっと外を眺めていると、向こうから高校生の男女2人組がやってきた。ご近所さんなのだろうか、自宅の下を通り抜けていったようだ。またしばらくすると、今度は高校生の男子2人組がやってきた。高校生がこんなにたくさん近所にいたかしら、と訝しんでいると、彼らは隣の家に入って行き、2人とも同じ回覧板を持って出てきた。なるほど、回覧板を受け取りに来たのか、と納得しつつも、家の外へ出て様子を伺う。

 すると彼らはなんと、堂々と我々の家の庭を突っ切って行くではないか。

「ひとの家の庭に勝手に入んなや!!」

と私が叫ぶと、母がキョトンとした顔でこちらを見てくる。母の普段の性格からして、私よりもこういったことを気にしそうだと思っていたため、私も驚いていると、母が言った。

「ここって私有地なの?」

 改めて周囲を見回すと、私の気付かないうちに庭については共同所有になっていたようで、こちらの家の庭とあちらの家の庭の境界線が曖昧になっていた。

210226 - 2

 数学の授業では、複数の生徒が宿題を板書させられることが度々ある。私も運悪く一番最後の二次方程式を解く問題を当てられた。指名された生徒たちが一斉に立ち上がり、板書を始める。普段の授業ではほとんど無いと思うのだが、この日は問題数が多かったからか、横黒板まで使うことになった。

 私の担当は一番最後なので、横黒板の右端に板書をすることになるのだが、先生が目分量でスペースを振り分けたせいで、幅がとても狭い。さらに私の背の低さと黒板の高さが相まって、なかなか上手く書けない。宿題はしっかりやってきたはずなのだが、ノートから目を離して見上げるような形で板書をし、続きを確認しようと再び俯くと、もうどこを書いていたか分からなくなる。他の生徒はみんなもうとっくに書き終わって、席に戻ってしまった。先生は左端から順に答え合わせを始めた。解説を進めながらこちらへどんどん近づいてくる。ヤバい、早く終わらせなきゃ!

 (3x+7)²を書いては消し、書いては消し、を繰り返していると、私のすぐ右横のドアが急に開いた。入口に、撮影関係者だろうか、それらしき機材を持っている人が何人か立っている。何の変哲もない授業のいったい何を撮影しようというのかは分からないが、先生は事前にこのことを知っていた様子だった。

 とにかく授業どころではなくなり、机は教室の隅に移動され、私はキーボードのような機材を手渡された。使い方も知らないし、持っていても仕方がないが、床に置くわけにもいかない。確か教室前方のドア横にソファがあったので行ってみれば、誰かがiPadを2台充電している。潰してしまうかもと思って諦め、机2台を組み合わせてもらい、そこへ機材を置こうとしたその時、どこからともなくヤモリが出てきた。

 都会でもヤモリはさほど珍しい生き物ではないのだが、よく見るとそいつには羽が生えている。羽の生えたヤモリはさすがに珍しい。生まれて初めて見た。私にそいつを見せてくれた人が手を滑らせてしまったのだろうか、羽ヤモリがブーンブーンと教室中を飛び回り始めた。私は虫は苦手ではないが、虫の羽音は嫌いなので、大変不快だった。結局板書を終わらせることはできなかったものの、目覚めることができて何よりである。

210226 - 1

 私の通う学校では、朝から全校生徒の集会がある。集会中、教室の鍵閉めをするのは日直当番の仕事である。

 その日の当番は私であった。いつもはどうなのか知らないが、何人かの生徒が、なかなか教室から出てくれない。私が電気を消して催促しても、今出て行くから、と言いながら、出て行くそぶりを見せない。

 そうこうしているうちに、集会は終わってしまった。朝から嫌な気分になった。施錠を諦めて集会に行かなかったのは賢明な選択だった、と自分を励まし、荷物を取りに向かう。なぜ自分の荷物は教室に置いておかなかったのだろう、と思う。他人の荷物を守るために、一部の言うことを聞かない奴らのために、自分の荷物が犠牲になっても構わなかったのか。

 青いコートと黒のリュックサックは今朝私が置いたまま、そこにあった。安心して部屋を出ようとすると、担任の先生が入ってきた。どうやら次の時間はここで授業をするようだ。

 私はここ最近、自分の従来の性格を変えるべく、奮闘していた。辛いことや悲しいことがあっても、誰にも相談できず、抱え込んでしまうのだ。暗い気持ちは誰かに話すことで消えるのではないか、溜め込み続けると自分が壊れてしまうのではないか、そう思って、小さなところから変化を起こそうとしていた。

 今はまさにその時だと私は思った。今朝のことは大したことではないかもしれないが、塵も積もればなんとやら、だ。こんな塵は積もってもらっても不快なだけだ。臆病な私は勇気を出して口を開く。先生は授業の準備をしながら、丁寧に耳を傾けてくれる。

 いよいよ話が本題に差し掛かろうとすると、教室のドアが開き、生徒たちが入ってくる。もう授業開始の5分前なのだと、ようやく気付く。ついさっきまで私のためだけにここに居てくれた先生は、もうみんなのための先生になってしまった。次々と入ってくる生徒たちにおはようと声をかけていく先生。話を遮られて教室の後ろで狼狽える私は幾分惨めに映っただろう。まあ、そもそも誰も気にも留めてはいなかったが。